第一飛行クラブ 広島 グライダー

この記事は、元自衛隊教官で、長年航空自衛隊に勤務され多くのパイロットを育て上げられた澤井さんに、「これまでの経験を後輩パイロットにぜひ教えていただきたい」とお願いし、特別に寄稿していただいたものです。
現在は、退官され第一飛行クラブ広島で趣味として空を楽しんでおられます。
お忙しい中、記事を書いていただきました澤井さんに深く感謝いたします。
(C) First Flying Club HIROSHIMA  2001

第41回 「思い込み

09.10.10にあった松山空港のノーギヤー・ランディングはお粗末の限りですが先日の国土交通省の「複唱」にも関連して感ずるところを書いてみました。


 1.
ノーギヤーランディング

 脚の出し忘れは過去にもたくさんあり珍しくはありませんが何故起こるのかと言う点は人間の注意力不足、勘違い等いろいろ考えられます。12教団で教官をやっていた友人が日航に入社してしばらく国際線を飛んだ後、仙台の日航の訓練所の教官をやっているときビーチH−18でノーギヤーランディングをやり、新聞にも載りました。また、同じく12教団で教官をやっていた友人が古巣の美保で教官に復帰してYS−11で学生訓練中ノーギヤーランディングをやりました。12教団で私の上司だった人が東京に転勤後、入間の航空総隊司令部飛行隊のF−86Fで着陸時見事な胴体着陸をやって話題になりました。彼はおおらかな人で入間タワーが「ノーギアー、ゴーアラウンド」と注意を喚起したそうですが彼は「ノーセット」と言って悠々と着陸したそうで、さすが大物と周囲を驚かせました。
2.人間工学

 昔の機体は飛ばすことにのみ集中して作られており飛行機の設計時から人間の誤りを防ぐ構造にはなっていなかったようです。いわゆる「フェイルセーフ」という考え方で、人間が操縦時に何か過ちを犯しても飛行機が危険な状態に陥らないようにする「安全ネット」と考えられます。私の経験では昭和12年製造のT−6、戦後アメリカから導入したT−33は非人間工学的だったと思います。F−104以降の機体は人間工学に基づいた設計になったようですがオートパイロットが進歩してくると一見人間の仕事を楽にしてくれるはずの機体が人間の言うことを聞かないものになってしまうようです。この例が名古屋空港で中華航空のエアバスA-300のオートパイロットと人類の戦いに人類が敗れたものと思います。「フェイルセーフ」機構に頼り過ぎると人間の注意力が減退しているように思います。通常、脚を出さないでスロットルを絞ると或る点で警報音が鳴るような設計はされていますがそれさえも聞き流したという人間の心理、注意力の特性を理解する必要があるようです。

 3複唱(リードバック)

 通常VFRでは複唱することは少ないのですがタクシークリアランスのR/W方向、QNHくらいは複唱しています。IFRでは計器飛行許可はグランドコントロールから流されて必ず復唱を要求されます。離陸許可の場合、IFRでは次の周波数とSIF周波数が伝えられ復唱を求められます。パイロットにとってはごく普通の手順で何の疑問も無く復唱しています。昭和40年代、F-86FまではGCI(グラウンドコントロールインターセプト)UHFでタワー、GCIサイトから音声で伝達していました。12教団ではベースコールで「○○○、ターニングベース、ギァダウンアンドロック、タッチアンドゴー」という風に言っていました。R/Wの接地点前にはMOBO(モーボ)という牽引可能な小さな温室のようなものがあり、訓練中はモーボオヒィサーが監視についており、進入機の脚が下りているかどうかをチェックし、アドバイスするとともに緊急の場合はピストル型の信号発煙弾を打ち上げてゴーアラウンドさせます。私の友人の一人が那覇空港でMU-2で離陸する際、着陸滑走中の全日空機と衝突した事故がありました。那覇のタクシーウェイは高速型で滑走路開放を速めるため曲線状でMU-2の構造上エンジンがコックピットのすぐ傍にあるため斜めの視界はよくありませんが全日空機と衝突したのは事実なので彼は起訴されました。これもタワーのボイスをよく理解せず聞き流したためかも知れません。

4.思い込み

 問題はいつものとおり、慣れきっている、情報を聞き流しているときその内容が本当に頭に入り、理解したかどうかですが馴れてくると一寸した情報の差異を見逃してしまう可能性があることです。人類がエンジンのパワーと翼によって空を飛べるようになって100年余、いろいろな事故が起きていますが未だに完全には事故は無くなっていないのが現実です。パイロットは同時に二つ以上の事を判断・処理するよう運命付けられていますが脚の警報音を聞き逃すことは許されることではありません。

 私は「人類が空を飛ぶのは神の摂理に背いている」と思っています。自然を軽く考える事無く謙虚な気持ちで安全に飛んで欲しいと思います。

 

  

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