第一飛行クラブ 広島 グライダー

この記事は、元自衛隊教官で、長年航空自衛隊に勤務され多くのパイロットを育て上げられた澤井さんに、「これまでの経験を後輩パイロットにぜひ教えていただきたい」とお願いし、特別に寄稿していただいたものです。
現在は、退官され第一飛行クラブ広島で趣味として空を楽しんでおられます。
お忙しい中、記事を書いていただきました澤井さんに深く感謝いたします。
(C) First Flying Club HIROSHIMA  2001

第4回 「エンジン音で飛行中止」

昭和40年代の初め、山口県防府基地でT34の教官をしていたころの話です。

 学生に飛行前ブリーフイングを終え、落下傘とヘルメットを持って指定された機番の飛行機を探しながら列線を歩いていると、おりしも列線を離れて滑走路へ向かう1機のメンターがありました。離れた所で聞いてもエンジン音がいつもの音とは違いブルルン、ブルルンという風に聞こえ、排気管から少し白煙が出ているように見えました。すぐ近くの整備員に知らせ、飛行指揮所に電話して「今列線を離れようとしている○○号機を止めろ」と連絡しました。

 教官パイロットは何が起こったのか分からず呼び戻されて不服そうな顔をしていましたが、私が「排気管から白煙が出ているし、エンジン音が不整だから飛行機を変えた方がいい!」とアドバイスしました。後にこのエンジンは、空冷6気筒の一番後ろのシリンダーのピストンリングが焼付きを起こしており、そこから吹き抜けた圧縮ガスがクランクルームのオイルを燃焼させていたことが分かりました。このパイロットはどちらかというとおおらかで脳天気な男でしたが、後にまた同じようなパターンで墜落事故を起こしました。

 人間の聴覚はある面で素晴らしい能力を持っていると言われていますが、注意を集中すれば自分の輝きたい音を聞き分けられるということを何かの本で読んだことがあります。
 例えば、100人近いオーケストラのある楽器の音を聞こうと集中すれば、聞分けられるそうです。生まれながらにそういう才能を持っている人とそうでない人では大きな差がありますが、私はある程度聞分けることが出来ます。
 数年前「絶対音階」という本がよく売れたそうですが、世の中には100人に1人くらいの割合で任意の音を問いただけで「これはソの音です」と言い当てられる人がいるそうです。
 ただし、全ての音を聞分けられるほど敏感なので、世の中の雑音に耐えられないという苦労はあるようですから才能に恵まれすぎるのも考え物です。

 一般の人が想像するパイロットの姿は、エアラインのコックピットで多数の計器に囲まれている姿だろうと思います。T3410数個、MU220数個の計器がありますが、パイロットは常時全ての計器を見ているわけではありません。外の見張りを強調する戦闘機ではとてもじっと計器を見つめている時間はありません。航空身体検査に視野の検査がありますが、前方を見ていても視野の中のどこかに異常な動きをしている計器があれば気が付きます。
音も普段聞いているのとは違うなという程度の判別が出来れば、異常の発見は可能です。たまに汗を拭くためヘルメットを取った時、騒音の物凄さに驚くことがあります。

MU2はパイロットの真横にエンジンがあるため特に凄い音がします。ヘリコプターはやはりギアの音がよく聞こえます。ジェット機はエンジンがパイロットの後ろにあり、排気も後ろに出ていますから一般的に静かですが、ヘルメットを取ってみると結構うるさいものです。MU2で人員輸送をする時は、ラジオマンがいませんのでコパイ席に座った者が無線交信を担当しますが、VHFUHFHFと三つのチャネルをモニターする必要があり、特にHFは電波の質が悪く常時モニターするのはかなりの負担になりますが、それでも異常音を聞き分ける自信はあります。近ごろ、MDCDを常時携帯してイヤフオーンを耳に挟んでいる人やシャコタン(車高短縮)車でドン(低音)シャリ(高音)ステレオのボリュームを上げて聞いている人が多いようですが、どこまで音の聞分けが出来ているのか、ただの難聴予備軍ではないのかと他人事ながら気になります。年を取ると高音が聞きづらくなるようなので、せいぜい耳を大事にしたいと思います。

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