第一飛行クラブ 広島 グライダー

この記事は、元自衛隊教官で、長年航空自衛隊に勤務され多くのパイロットを育て上げられた澤井さんに、「これまでの経験を後輩パイロットにぜひ教えていただきたい」とお願いし、特別に寄稿していただいたものです。
現在は、退官され第一飛行クラブ広島で趣味として空を楽しんでおられます。
お忙しい中、記事を書いていただきました澤井さんに深く感謝いたします。
(C) First Flying Club HIROSHIMA  2001

第36回 「ヘリコプター

0907.25

米子空港から但馬空港に向かったヘリが行方不明になって四日になります。空救団で11年間ヘリの運用にかかわった経験と耳学問で感じたことを書いてみます。

(1)ヘリの運用

ヘリは固定翼機の翼の役目をローターが担っていますがこのローターの回転面を傾けてローターという揚力発生装置の水平分力で前進・後退・横方向の移動を行います。

ジットエンジンの回転数は20000回転前後、ローターの回転数は通常数百回転で回転しながら機体が前進するので翼端の速度が大きくなるとローターそのものが失速します。したがってヘリの前進速度には自ずから限界があります。UH−60はローターの先端に後退角をつけて翼端失速を防いでいます。さらにローターは機体が前進して相対風に向かうときと逆のときとは自動的に迎え角を変えないと右半円と左半円の揚力がアンバランスになり横転してしまうのでローターが1回転する間に自動的に迎え角を変えるようになっています。これらの装置はとても人力では動かせないので油圧でリンクやレバーやディスクを動かしています。このように回転部分の多いヘリは整備間隔が短く、チャーター料も固定翼機の数倍以上高くなります。ちなみにV−107の場合、25時間でHPO(飛行間検査)をやる必要があり、100時間ごとにさらに高度な整備をする必要があります。航空救難事態が発生した場合、3時間を基準に捜索に投入すると三日でHPOをやる必要があり、約半日かかります。

()ヘリのIFR

  空救団ではパイロットは全員計器飛行証明を持っており、IFR飛行が可能ですがヘリのIFR飛行にはいろいろと問題があります。高度が高くなれば空気密度が小さくなりローターの迎え角を大きくしないと必要な揚力が得られないので迎え角を大きくします。迎え角を大きくすると回転方向の抵抗が大きくなるのでエンジン出力を上げる必要があります。昔、シコルスキー社がS−62の売り込みのため富士山山頂に着陸して見せましたがあれは燃料をうんと少なくして飛んだと言われています。また、国内の航空路の最低安全高度は5000フィート以上になっているのでヘリにとっては苦しいことになります。  

()ヘリパイは下がりたがる

  ヘリのパイロットは地面を見て飛びます。固定翼機パイロットは天気が悪ければ迷わず高度を上げて最寄の管制機関にコンタクトしてIFRに切り替えて飛びますがヘリパイは前項で述べたようなヘリの運用特性から何とか最後まで地面を見て飛びたがります。天候の悪化に伴い段々と高度を下げていくうちに場所が分からなくなって山に激突したという例はたくさんあります。

()重量と高度

  昭和56年ころ、北アルプスの槍ヶ岳で男女二人のペアが負傷して槍ヶ岳山荘に収容され、この患者空輸の要請がきて小松救難隊のMU−2、V−107各1機が出動しました。現場は時々雲がかかる状態だったようですがMU−2が現場を確認しV−107がアプローチして山荘上空でホバリングして収容作業中揚力が不足して山荘の屋根に裏返しになって墜落するという大事故が発生しました。さいわい乗員、患者に負傷は無く別のヘリで空輸しましたが何故V−107が墜落したのかが問題になりました。V−107は機体の両側に大きな燃料タンクがあり、1個あたり500ガロン入り合計1000ガロンで約4時間飛べますがこのようにヘリにとっては高高度の山岳でホバリングが可能かどうか、機長の判断が問われます。また、このタンクには燃料ダンプ機構がついており、コックピットからのスィッチ操作で燃料を空中に放出することができます。このときは燃料のダンプはしていなかったそうですが山脈の稜線上の山荘に風下からアプローチすると当然吹き降ろし風の影響を受けますからホバリングにはさらに不利になります。コレティブピッチを最大にしても必要な揚力が得られなかったという話も伝わってきました。

()ヘリという乗り物

  昭和30年代にヘリ操縦課程で訓練を受けた人の話では陸自明野航空学校でベルH−13、いわゆるとんぼの目玉と呼ばれた200馬力程度の空冷水平対向6気筒のレシプロエンジンで2枚のローターを回すごく初期のヘリでは大分苦労したということです。ヘリの操縦は右手で操縦捍を、左手でコレクティブレバーという固定翼機のスロットルとプロペラピッチコントロールを兼ねたレバー、ラダーペタルはテイルローターのピッチをコントロールしてローターのトルクを消し、機体の方向性を保つことになっています。このコレクティブレバーが曲者で「トルクメーター」という三針式の計器を見ながらローターを回すのに必要なトルク、エンジン出力、そのとき出せるエンジンの最大トルクの三つが針割れなくスムーズにレバー操作をしなければなりません。エンジン出力はオートバイグリップと呼ばれるグリップを回しながらピッチレバーを引き上げる必要があるので訓練が終わったら自分の左手の指をレバーから離すのに右手の助けが必要だったそうです。やがて二軸のターボシャフトエンジンが出現しピッチレバーを引き上げるとエンジン出力が自動的に増加するという機構になりヘリの操縦が飛躍的に楽になったと言われています。芦屋救難隊のヘリパイの説明では現在のUH−60は基本的に自動操縦で安定的に飛行し、そこにパイロットの意思で何らかの操作をしたらそのように動いてくれる安定した乗り物になっているそうです。

  私は体験程度に新潟でS−62、新田原でV−107を短時間操縦しましたが確かに面白い乗り物だと思います。天候不良で機位不明、姿勢不明になったとき「計器飛行」の基本的知識があれば生存可能ですから暇なときに勉強してみてください。

 

  

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