第一飛行クラブ 広島 グライダー

この記事は、元自衛隊教官で、長年航空自衛隊に勤務され多くのパイロットを育て上げられた澤井さんに、「これまでの経験を後輩パイロットにぜひ教えていただきたい」とお願いし、特別に寄稿していただいたものです。
現在は、退官され第一飛行クラブ広島で趣味として空を楽しんでおられます。
お忙しい中、記事を書いていただきました澤井さんに深く感謝いたします。
(C) First Flying Club HIROSHIMA  2001

第3回 「燃料とエンジン」

燃料ドレイン

朝の始業点検でたいていの飛行機のチェック・リストには、 「燃料タンクのドレイン」という項目があります。
燃料タンク内の燃料中の水分が温度変化等によってタンク底部に溜まっているので「ドレインバルブを開けて水分を排出する」ことを言います。
通常バケツに採って目視で水分がないかどうかを点検して水分が認められなければ"OK"というわけです。あれは昭和49年頃だと記憶していますが、新潟救難隊のS-62(シコルスキーヘリコプター)の尾部の水平安定板を支えるステーに亀裂が発見された為、リベット で当板を当てて修理することになりました。
ところが、たった1名の板金マンは上級資格取得のため入校中で、隣の石川県小松基地の「第六空空団」の助けを受けることになり、その板金マンの送迎を私がT-34メンターでやることになった時の事です。
天候も問題はなし、新潟・小松間は約160マイル、1時間半の飛行予定で後席にお客さん用の落下傘とヘルメットを積んで基地を出発しました。
 新潟での作業が終り、午後再び板金マンを小松に送って鼻歌まじりで夕刻新潟に帰りました。メンターの燃料タンクは両翼内にあり、容量は50ガロン(約190リットル)で4時間半飛ベますが、念のため小松で燃料補給をしました。
メンターの燃料はオクタン価80/87ですが、小松ではドラム缶から手回しポンプで補給してくれました。
翌朝、整備小隊長が顔色を変えてバケツを持って来ました。中には、なんとバケツに半分くらいの水が入っていました。
燃料補給は小松救難隊がやってくれていましたが、同じ救難隊同士で責任を押しつけ合うのも適当ではないので、情報として伝えるだけにしました。
 飛行中、特にエンジンの異常もなく私はなんとも思っていなかったのですが、整備員達はびっくりしていました。日本海沿いの海岸線を高度3, 000フィート程度で飛んだわけですが、小松の板金マンがこの話を聞いたらきっとびっくりしたことでしょう。

燃料の備蓄

昭和50年当時、航空自衛隊の航空基地は全国に10数カ所ありましたが、もちろんジェット機が主体でありまして航空燃料は"JP-4"を使っていました.
 レシプロエンジンの飛行機は、 T-34と輸送機要員の教育用と司令部連路用のビーチ65のみで、はとんどの基地ではレシプロ燃料はドラム缶の野積みで保管されているのが現状でした。
3年に一度、航空自衛隊全員が参加して空白総合演習が行われますが、練習機のうちジェット機は仮想敵機(フェイカー"Faker")として、またレシプロ練習機は演習間臨時に編成される救難隊の捜索機か司令部の連絡機として主に使われていました。
 静浜(静岡県大井川河口)の「第11飛行教育団」は主として東日本へ、防府の「第12飛行教育団」は西部日本の各基地に展開する計画になっていました。
 当時私が防府で操縦教官をしていた頃、学生の教育も一段落し、たまには山口・九州以外の空も飛びたいと思いメンターで千歳まで「教官練成訓練をやりたい」と申し出たところ、途中の基地の燃料備蓄と整備能力に問題があるので許可できないといわれた事がありました。結局、粘って松島まで行く許可をとりました。
 往きは静浜で燃料補給し、松島で一泊、翌日仙台(当時は矢の目)にいる友人を訪ね、入間で燃料補給して無事防府に帰ってきました。
 T-34の後継機、 T-3は燃料が100/130となり、ますます補給が困難になっています。T-34, T-3のほかに、救難団のヘリコプター用にもレーダーサイト等に燃料を備蓄していますが、これもドラム缶備蓄なので問題が多いようです。米海軍は燃料の統一をいち早く実行し、初級練習機もターボ・メンターに変えて空母から陸上基地まで航空燃料は全て"JP-5"にしています。

燃料とエンジン

T-34が老朽化したとき、後継機をどうするかという議論になり、当然ターボプロップ化の話が出たようですが、「初めて飛行機に乗る学生がエンジンスタートの時ジェットエンジンを壊す恐れがある」とかいう信じられないような理由でターボエンジン化が見送られたと聞きました。
T-3も既に老朽化が進み、昨年機種決定直前まで行きながらメーカーの汚職事件で機種決定が延期されました。侯補機は、ターボメンターとスイスのビラタスターボのどちらかで、いずれにしてもようやくターボエンジン機になるようです。
エンジンの話はまた稿を改めて書きますが、ここではエンジンと燃料の関係について考えてみましょう。
航空機用エンジンは一般に考えてられているほど高圧縮、高回転型ではありません。一言で言えば、連続して安定的に回ることが一番で、比較的短いストロークで回転はせいぜい3,000回転以下、圧縮比も5〜8程度です。
例えばセスナ172のエンジンは、O-320、メンターはO-470ですが、Oは「OPPOSITE (対向)」の意味で、水平対向エンジン、次の数字はシリンダー容量を立方インチで表したものです。
1立方インチは16. 3871立方センチですから、"O-320"は、320×16. 3871=5, 244立方センチ、 4気筒ですから5, 244÷4=1, 311立方センチとなります。"O-470"は、 470×16. 3871=7, 702立方センチ、6気筒ですから、 7, 702÷6=1, 284立方センチとなります。
つまり、 1気筒あたり1,000ccを越える太いピストンがゆっくり回っているということです。
ちなみに、吸排気バルブを動かす機構もプッシュ・ロッド式で自動車エンジンがほとんどO・H・CまたはD・O・H・Cになり、圧縮比も10近く、回転は5, 000〜6, 000回転が主流となっている現在、意外にも古い形式のエンジンなのです。
航空エンジンは、高度が上がると空気密度が小さくなり気温も下がるので、常に空燃比とアイシングの問題があります。メンターでは通常5, 000フィート以上ではミックスチャーレバーを使って空燃比を適度に保つよう手順化されており、その指標になるのはシリンダーヘッド温度ですが、セスナにはシリンダーヘッド温度計はありませんね。
T-6とT-3は、加給器(スーパーチャージャー)が付いていますが、吸気圧を高くしたため燃料も高品質のものが必要になります。
T-6は91/96という燃料を使っていました。T-3は100/130を使っています。T-34は、地上での吸気圧は29インチ以下ですが、T-3は43インチの吸気圧があり, 5,000フィート以上の高度で威力を発揮してくれます。
車のエンジンにはターボチャージャーのついているものがありますが、これは排気圧力でコンプレッサーを回し吸気を加圧するものです。またスーパーチャージャーは機械的にコンプレッサーを回して吸気を加圧する方式で、小さなエンジンではかなり負担になります。

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