第一飛行クラブ 広島 グライダー

この記事は、元自衛隊教官で、長年航空自衛隊に勤務され多くのパイロットを育て上げられた澤井さんに、「これまでの経験を後輩パイロットにぜひ教えていただきたい」とお願いし、特別に寄稿していただいたものです。
現在は、退官され第一飛行クラブ広島で趣味として空を楽しんでおられます。
お忙しい中、記事を書いていただきました澤井さんに深く感謝いたします。
(C) First Flying Club HIROSHIMA  2001

第27回 「操縦適性」           
 

1.操縦適性検査隊

  防府の第12飛行教育団に操縦適性検査隊という部隊があり、航空自衛隊のパイロッ  トを目指す者は必ず通過しなければならない関門です。私は5年余の飛行隊勤務で約100名の学生を送り出し昭和44年4月から操縦適性検査隊総括班長に配属されました。検査班、心理班、追跡班、総括班合わせて20名程度のこじんまりした部隊です。仕事はパイロット要員の選別ですが実際に飛行機(当時はT−34メンター)に乗せて判断することになっていました。学生は1週間滞在する間に5回以上飛行機に乗り、毎日異なる検査官が搭乗して判断の公平を期するシステムになっていました。検査官の大部分は戦中派の経験豊富な人たちで、私は飛行時間2000時間以上で事業用免許も取得していましたが教育とは違った悩みもありました。1回わずか40分の飛行中、直径15センチくらいのバックミラーで観察した結果で学生の将来を判断しなければならないからです。しかも午前中に三人の学生に乗り、午後はその結果を整理して報告しなければならずABCの三人にどのような差があるのか判断に悩んで隊長に相談したこともあります。定量的判断基準が無かったのです。

2.操縦適性

  パイロットに必要な資質とは何かということはいろいろ議論はされていましたがいずれも自らの経験に基づく定性的な判断が主流で、マークシート式の採点ができるような制度は確立していなかったのです。ある日、8空団6飛行隊からきた後輩のN1尉が飛行教育集団司令部の課題研究「パイロットに必要な資質」の担当を命ぜられ相談にきました。一般には冷静沈着、果断、が戦闘機パイロットに必須の資質であると信じられていましたがそれを誰がどのように判断するのかは根拠が示されていません。

  航空自衛隊発足から15年、飛行教育専門部隊である飛行教育集団に今頃こんな研究を命ぜられるとは彼も予想していなかったようで、盛んに文句を言っていました。  

3.操縦適性検査

  検査項目は40度バンク水平旋回、パワーオンストール、パワーオフストールで、検査官がデモをして学生に操作させ、その結果を採点するという方法ですが、三舵の使い方、注意配分、手順の正しい理解等を見ていました。検査結果は二項定理の山型の分布になり、ABが20%、DEが20%、Cが60%という結果に収まっていました。

  空自の年間パイロット養成数は大体70名程度でそこに出身の異なる学生、防大、一般大、航空学生、部内幹部候補生がひしめき合うことになります。検査の最後にはスピンとアクロバットをやって見せて異常な反応を示す者がいないかを見ていました。たまにアクロバットで異常な反応を示す学生がいたようです。心理幹部の分析では難しい課目、パワーオフストールの相関係数が最も高いということでした。単発プロペラ機のトルクの特性が最もよく出る場面で機体をうまくコントロールできる学生の操縦適性は高いというわけです。ギャー、フラップダウン、パワーアイドルで左右に旋回しストールに入るまでその姿勢を保持することは学生には難しい操作です。

4.追跡調査

  操縦適性検査隊では毎年飛行教育部隊、時には航空団に出向いて操縦適性検査隊の下した判断の妥当性を追跡調査して検査精度の向上に反映させていました。また、大事故を起こしたパイロットについては空幕監察官室に出向いて資料を分析していました。
個人的な感想としては取り付きのよい学生は素質に恵まれていて検査結果はよくてもそれがパイロット人生の幸せにはつながらないということです。ある日、私の教え子の一人が入間からF−86Fの2機編隊長として築城に立ち寄り、燃料補給後雨中を那覇に向けて離陸上昇中2機とも海面に激突して殉職した事故があります。おそらくバーティゴが原因と思われますが彼は取っ付きがよく進歩も順調な学生でした。

 5.心理テスト

  操縦適性検査隊には2名の心理幹部が配置されていました。ひとつのコースの終わりには関係者全員が集まって学生の成績序列に関して議論します。飛行適性はABCDEの5段階、心理適性と医学適性はABCの3段階評価ですが、総合成績はABCDEの5段階評価になります。その席で心理幹部の性格分析が面白くいつも関心を持って聞いていました。心理幹部は2名で飛行検査の合間に学生に40分間の面接を行い、いろいろ分析をしていたようですが、着隊時に各人に「生い立ちの記」を書かせそれを基に性格形成過程を探り、悪い方向に向かっていないか判断していたようです。 
心理幹部いわく「人間の性格には変わらない部分と変わりうる部分がある」という言葉が印象に残っています。70番前後になると議論が白熱し投票になったこともあります。

 6.受験準備

 ある日、民間の「翼」という雑誌を見ていたら「航空自衛隊操縦適性検査準備コース○○万円」という広告を見て驚いたことがあります。誰がやっている組織か知りませんが事前に軽飛行機で練習してくればたしかに操舵はうまくなります。そういう制度があることをわれわれが知らなかっただけです。後にF−86Fブルーインパルスのメンバーになった男はその一例ですが彼は元空自パイロット、現在民航パイロットの父親からセスナで何時間か手ほどきを受けていたことが分かりました。  

人が人を評価し管理することはどんな組織、いつの時代でも難しいものです。他人の経験を理解して自分のものにすることは大事なことだと思います。


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