第一飛行クラブ 広島 グライダー

第2回 寒冷地対策

今回は新春号ということでゲストに登場してもらいました。
以前八尾空港にて小型機の整備をしておられたのですが、現在成田空港勤務し大型機のキャビン関係の保守整備等に携わっている"さすらいの整備士"(仮名)さんです。
テーマをいろいろ考えたのですが、これからまだまだ寒い日が続くということで「寒冷地対策」をテーマにしてみようと思います。

★整備士T(T): 大型機では「寒冷対策」はどのようなことをやっているのですか?
さすらいの整備士▲(さ):私はキャビン関係を主にやっているので携わっているところ以外については細かく説明は出来ませんが、もともと大型機はANTI-ICE SYSTEMというものがあって(小型機にもあるが)ピトーチューブやスタティックポートの電熱ヒーターや、ウイングリーディングエッジ、ナセルのエンジンブリードエアによるヒーターなどがありますが、その他特別に行う凍結防止のものとしてMED(メインエントランスドア;乗客の出入口になるドア)のヒンジ部分のメカニズムをグリスでコテコテにして水分が入らないようにして凍結を防止したりしています。
★(T):これは冬期のみに行っているのですか?
▲(さ):そうそう、秋から春までタイムチェックで行っています。
★(T):ヒンジ部はドアの他にもフライトコントロールにもありますがこれらはどのようにされているのですか?
▲(さ):大型機のヒンジ部(エルロン、エレベータ、ラダー)は、水の入らないような構造になっています。
翼と動翼の間にシリコン性のシールがあり、又舵面にもシリコン性の潤滑剤を塗布することによりヒンジ部に水が侵入しないようにしています。
もともと大型機は高高度を飛行するため寒冷による不具合が起きないために色々な装備がされています。
小中型機にも装備されているウインドシールドの電熱線や、前に話したピトースタティックポートのヒーター等、あと、ギャレー等の排水出口の電熱ヒーター。
以前空から氷の塊が民家に降ってきたことがあったと思いますが、あれはこの排水出口部で水が凍結しそれが落下したもののようです。
氷の塊を作らず、又系統内が氷により閉鎖されるのを防止するためについているものです。
★(T):翼の上の氷はどのようにしているのですか?J−AIRの機体は前の晩に翼上面にシートを張って直接霜や雪が降りないようにしているみたいですが。
▲(さ):翼上面の防氷・除氷については、温水に規格の防除雪液(ADF;Anti Deicing Fluid:エチルグリコールを含む薬品で各種タイプがある。FAA承認規格。)を混合しそれを飛行前翼上面に塗布します。
これにより除氷され又、状況によって異なりますが数時間は翼上面が凍結することはありません。
私の仕事の範ちゅうではこれくらいでしょうか。
★(T):ありがとうございました、また参加してください。

最後に小型機の寒冷対策を少しお話しします。  
寒冷時は始動が困難になりますがなかなかエンジンが始動せず、再始動を繰り返すことがありますが、これにより点火プラグ電極間やエンジンシリンダー燃焼室内に氷結や水滴がたまることがあります、特に外気温度が低く(−20℃)湿度の高い時はすぐに点火プラグに水が溜まってしまいます。
これはエンジン内で冷やされた空気が圧縮されることにより中の水分が飽和し水滴となるためです。
これにより点火しにくくなってしまうこともあります。
また多くのプライマーを必要とすることで、ハイドロリックハンマーを起こしたりエンジン内のオイルを掻き落とす原因にもなるのでエンジンの予熱やオイルの燃料による稀釈などが推奨されています。
予熱やオイル稀釈を必要とする環境は地上外気温度が32°F(0℃)以下の場合であるので北海道などの寒冷地ではこの時期は必要になります。聞いた話なのですが、その日のフライト後オイルはすべて抜き取り、次の日のフライト前にはオイルをストーブの上で温めてエンジンへサプライするそうです。  
セスナ172機では寒冷時期の特殊装備としてPOH(Pilot Operator's Manual)及びMM(Maintenance Manual)による"Winterization Kit"を装備することが出来ます。(修理改造検査が必要。)
内容は冷却空気取入口を塞ぐ2枚のプレート、オイルクーラー後面の遮蔽板、エンジンクランクケースから出るブリーザパイプの被覆です。
ブリーザーパイプ被覆は1度取り付けたら温度に関係なく取付けたままで良いのですが他のものは20°F(−7℃)以下で運用時に取り付けとなります。
第一航空機体JA3929は北海道で運用されていた為、この装備が追加されています。  
そしてフライト前に厄介なのがウインドシールド上の氷です。
大型機や中型機のように電熱線が入っていれば簡単に除去できるのですがそれが装備されていない機体などは朝早いフライトは大変だと思います。
これを取り除くために車の霜取り剤はお勧めできません。
車のガラスと違い小型機ウインドシールドはアクリル板を使用しておりますが、これの特徴として「有機溶剤に弱い」という欠点があります。
有機溶剤は水などよりも浸透力が大きく、アクリル内にも浸透します。
これによりクレージング等を引き起こしてしまうのですが、霜取りスプレーにはアルコールが含まれているのでクラックの原因となってしまいます。
ちなみに車用ノンワイパー剤(レインエックス)もアルコールが入っているので不可ですし、アクリルは自己潤滑性があるので塗膜も乗りません。
温めのお湯で除去されることをお勧めします。
大型機も小型機も寒冷時に起こる不具合を事前に回避するために色々な工夫がしてあります、あとは事前の準備を整えて視程の良い今の時期、安全で楽しいフライトをしましょう。

第一航空 広島事業所 整備士T

クラブニュース 2000年1月号掲載

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